社交やゲーム、ビジネスの機会など、さまざまなインターネット機能やサービスを全て没入型の仮想現実世界に組み込んだメタバース。
フェイスブック(現Meta社)が2021年にメタバースへの本格参入を発表して以降、急速に人気が高まっています。
本記事では、メタバースの定義のほか、メリットとデメリットを6つずつ紹介します。それぞれ詳細に掘り下げたため、ぜひメタバースを理解するための参考にしてください。
メタバースとは
メタバースは、メタ(meta:超)とユニバース(universe:宇宙)の合成語であり、インターネット上の三次元空間を意味します。
ユーザーが自分の分身であるアバターを使い、オンライン上で物理的な現実世界と同じように、他者とコミュニケーションできるのが特徴です。
現在はマインクラフトなど後進のメタバースの陰に隠れてしまいましたが、代表例には、米国のリンデンラボ社のSecond Life(以下、SL)があります。
SLはユーザーが著名人の講演を聞くといった娯楽を楽しめるだけでなく、自由に建物や店を作るなど、ビジネスでの活用も可能です。実際にトヨタが2000年代、SLに参入して支店を開くなど、一躍注目を浴びています
SLでのビジネス取引は現実世界さながらであり、現実世界の貨幣にも換金できるSL内通貨「リンデンドル」の取引額は年間1億ドルを超えていたと言われています。
メタバースのメリット
投資家のマシュー・ボール氏によると、メタバースのコア属性には、永続性やユーザー数に制限のない同時接続、完全に機能する経済など、7つの性質があると言われてます。
これらの7つの性質は、現実世界では体現できない革新的なものです。したがって、メタバースは、リアル世界では享受できないメリットを有していると、容易に想像できるでしょう。
ここからは、メタバースのメリットを6つ紹介します。
世界をつなぎ、物理的な障壁をなくす
メタバースで最も注目すべきメリットは、地理的な障壁が完全に無関係になることです。
メタバースの仮想世界に入ると、物理的な場所は問題ではなくなり、場所に縛られる制約もなくなります。
これらはインターネットの特性の一つですが、通常のインターネットでは、ここまでのメリットを享受できません。チャットやオンライン電話などのコミュニケーションは、相手を立体的に知覚できず、物理的制約が大きいためです。
一方、メタバースは、誰もが対等に会えるニュートラルな空間として機能します。加えて、自分と似たような興味や考えを持つ人との出会いが容易になるとともに、より本物に感じられ、ユーザーは快適な自宅の環境から新しい友達に会えるようになるでしょう。
没入型体験を味わえる
メタバースは従来のインターネット体験を立体的に拡張するため、没入型体験を味わえるのがメリットです。
人間がバーチャル世界を現実として認識するためには、身体性が重要とされます。メタバースは、アバターが疑似的な身体として機能するため、ユーザーは活動に没頭できるのです。
実際に、メタバースでは、すでに多くのユーザーがVR(仮想現実)を体感できるヘッドセットを装着し、仮想環境でエクササイズや社交、ゲームなどを楽しんでいます。
社会的相互関係の向上
メタバースは、人々の結びつきである社会的相互関係を向上させます。
これまでもオンラインイベントなど、物理的に離れた状態で、社会的相互関係を向上させる技術はありました。しかし、没入感で現実世界に劣り、オンライン上での友人や家族とのつながりは希薄であるとの感覚が拭えませんでした。
しかし、メタバースは、没入型体験の提供によって、現実世界と相違ない社会的相互関係の提供を可能にしています。
仮想通貨とNTFの取引拡大に好影響を与える
メタバースは、メタバース内のアバターやアイテムといったデジタルコンテンツの売買に使われる仮想通貨やNFT(非代替トークン)の取引拡大に好影響を与えるでしょう。
とりわけ、NFTは、デジタルコンテンツの唯一無二性を証明するため、メタバース上の権利保護を担保する上で重要な役割を果たします。
例えば、メタバース上のデジタルコンテンツは、容易に複製・流通できるため、偽物の流通や著作権侵害が懸念されます。しかしNFTを用いることで、デジタルコンテンツの保有者情報の表明が可能となるのです。
また、NFTは、複数のメタバース間でデジタルコンテンツや通貨を相互利用する上でも貴重な役割を果たします。これは、NFTの多くがイーサリアム由来の標準規格「ERC-721」に準拠しているため、相互運用時に対応しやすいためです。
新たなビジネス機会の創出
メタバースは、仮想空間上の経済圏として機能する性質により、人々に新たなビジネス機会を提供します。
例えば、ゲーム空間内の一区画や構造物のデータであるデジタル不動産が、新たなビジネス機会の代表例と言えるでしょう。
すでに、多くの機関投資家らがデジタル不動産の購入に殺到したことから、デジタル不動産市場は活況を呈しています。
ビジネス機会の創出に資するのは、デジタル不動産だけではありません。メタバース内のゲームの報酬として獲得できるNFTやトークンも、経済活動の活発化を促しています。
労働環境の改善
メタバースは、現実世界と相違ない労働環境を仮想空間上に提供し、在宅勤務の生産性を飛躍的に高めると言われています。
VRヘッドセットを装着し、自宅から参加できる仮想空間上の仕事場について、Meta社のマーク・ザッカーバーグは、「無限のオフィス(infinite office)」と形容し、労働環境の改善に高い期待を寄せています。
Meta社は2021年以降、メタバース分野への巨額な投資を続けており、職場環境に改革をもたらすツールが誕生する日もそう遠くないと考えられるでしょう。
メタバースのデメリット
最新技術は一般的に受益者に多大なメリットをもたらす一方で、デメリットを与えます。
それは、完全無欠のように見えるメタバースでも同様です。
ここからは、メタバースが普及する上で避けられないデメリットについて言及します。
サイバー犯罪発生の懸念
メタバースは最新技術であるため、洗練されたサイバーセキュリティを具備できず、サイバー犯罪の発生を回避できない可能性があります。
言わば、メタバースは、詐欺やマネーロンダリング、違法な商品の流通、サービスの不正取引、サイバー攻撃といった、あらゆる種類の違法行為に対して脆弱なのです。
サイバー犯罪への脆弱性は、メタバースが単に先端技術である理由に留まりません。メタバースは、ブロックチェーンを基盤とした分散化プラットフォームのため、政府はサイバー犯罪と戦い、対抗することが難しいと言われています。
プライバシーとセキュリティの問題
メタバースは、常にプライバシーとセキュリティの問題にさらされます。これは、デジタルソリューションがユーザーからデータを収集する行為を積極的に展開しているからです。
デジタルソリューションが収集したデータは、広告主に販売され、ユーザーの閲覧履歴を反映した追跡型広告の使用に活用されます。
こうした懸念に対して多くの企業は対処できておらず、メタバースは個人や団体のセキュリティとプライバシーに新たな問題を引き起こす可能性があると言えるでしょう。
現実世界とのつながりが薄れる
メタバースは長時間利用すると、ユーザーが現実世界への愛着を失う恐れがあります。これは、メタバースが提供する没入型体験のレベルが高いためです。
この結果、メタバースのユーザーは、仮想空間以外の世界の存在を認めないといった事態に陥るリスクが発生します。
メンタルヘルスの悪化
メタバースは社会的なつながりや娯楽の提供、ビジネス機会の創出といった側面を超え、ユーザーのメンタルヘルスを悪化させるリスクが存在します。
実際、心理学の既存研究では、デジタル世界に没頭し、現実世界から自分自身を切り離すと、ユーザーが現実から永久に切り離される可能性が高まり、精神病に近い症状につながる可能性があると言われています。
大企業による市場の寡占
メタバースでは、個人が社会的交流に勤しむ傍ら、大企業が主導権を握り、仮想世界をマーケティングキャンペーンや広告の展開のための独自の基盤に作り変えるのではないかと懸念されています。
これは、大企業支配からの脱却を目指すWeb3.0の理念に反する事象です。
振り返ると、大企業がプラットフォームを牛耳る事例は後を絶ちません。例えば、YouTubeでは、企業が次々と参入した結果、個々のクリエイターから指揮権を奪いました。
これにより、YouTubeでは、プロが制作、編集した動画が多くの動画再生数を稼ぐ事態を招いています。
仮想空間でのいじめの発生
メタバースでは、仮想空間でのいじめの発生が相次ぐのではないかと危惧されています。
これは、ソーシャルメディアやオンラインゲームなどと同様、インターネットでは他者に対する悪意ある行動が多分に発生するためです。
メタバースは相互接続性が強い分、いじめの被害者は攻撃を回避できず、従来のネットいじめ以上にダメージを受けてしまう恐れがあるでしょう。
デメリットを解消できるか否かは人々の意思次第
デメリットが厳然と存在する以上、メタバースが完全に最適化されるまでには長い道のりがあります。
それでも、大手IT企業を筆頭に技術者たちがデメリット解消に向けて日夜奮闘しており、メタバース開発で生じるデメリットの多くは、時間の経過とともに減少する可能性もあるでしょう。
また、メタバースを使用するユーザーの意思決定も重要です。ユーザーがルールと制限を遵守すれば、メリットが際立ち、メタバースの価値は最大化されると考えられます。