ブロックチェーンを基盤とした「Web3」の世界の象徴とされるDAO。硬直性の高い従来組織の課題を解決するだけでなく、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する手段として期待を集めています。
さまざまなメリットがありますが、DAOは全く新しい概念であり、意思決定の前にバランスのとれた観点から理解することが欠かせません。
そこで、本記事では、メリットとデメリットを4つの主要なポイントに絞り、解説します。
DAOとは
DAOは、Decentralized Autonomous Organizationの略であり、物事の進め方や報酬のインセンティブ設計などを、非中央集権的に運用する分散型自律組織のことです。
中央に意思決定機構が集まり、それによってコントロールされる従来の中央集権型組織とは、対照的な仕組みを有しています。
例えば、ビットコインに次ぐ暗号資産であるイーサリアムは、コミュニティの運用でDAOを採用し、報酬がコミュニティの構成員に平等に支払われる仕組みとなっています。実際、共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏が保有するETHは全体の0.3%に過ぎません。
富が一部の意思決定者に集中せず、アプリを開発する人や資金出資者など、プロジェクトに関わる人が、金銭的なインセンティブを平等に受け取り、自律的に組織やプロジェクトを動かせる構造となっているのです。
このようなDAOの公正な仕組みを支えるのが、パブリックブロックチェーン上に展開されるスマートコントラクトです。スマートコントラクトが組織やコミュニティの重要なルールやガバナンスをコード化することで、インターネット上でもフラットな関係を容易に構築できるようになりました。
DAOのメリット
DAOの構造は多くの利点を有しています。
例えば、Web3組織の基本的な要件でもある透明化や分散化、アクセシビリティの高さは、旧来的な組織では実現できないメリットです。
ここからは、DAOのメリットについて、4つ紹介します。
特定の人に依存せずに組織運営が可能
DAOは、特定の人に依存せずに組織運営が可能です。
例えば、意思決定については議決権を持ったメンバーによる投票で決まるほか、意思決定の過程と結果もメンバーにオープンに公開されています。
組織のメンバーが独立している自律組織となっていることから、特定の人を経営陣に据える必要がありません。
こうした特長は、一部の優秀な経営陣に業績や組織活力を委ねる、トップダウン構造の従来組織とは対照的だと言えるでしょう。
ガバナンスの透明性が高い
DAOは、ガバナンスの透明性が高い点も大きなメリットの一つです。
ブロックチェーン技術により、提案内容や議決結果は全て公開されるほか、それぞれの議決で誰がどのような意思を示したかについても、全てのオンチェーンの仕組みで記録が残されます。
高いガバナンスの透明性がもたらすメリットはこれだけではありません。Discordなどのチャットツールで、後から参加したメンバーが過去の議論を調べ、トランザクションを柔軟に追跡可能となっています。
外部からの圧力に強い
DAOは、政府など外部からの圧力に強い特長を有します。
DAOでは、スマートコントラクトでコード化されたルールやガバナンスが全てであり、仲介者や管理者のみならず、外部からの介入も許さないためです。
このため、DAOはサービスを止めるという判断ですら、特定の人だけで決められません。このため、仮に政府がサービス中止を求めても、メンバーからの賛成多数で承認が得られないと、中止の判断自体ができない仕組みとなっています。
報酬が公正に付与される
DAOは、運営に貢献するメンバーに対し、ガバナンストークンが割り当てられるなど、報酬が公正に付与されます。
有名なガバナンストークンは取引所で扱われている上、発行上限があることから、プロジェクトが認められトークンの人気が上がると、トークンの価格が上昇する傾向にあります。
つまり、DAOの参加者は、トークン付与によって、大きな経済的リターンが期待できるのです。
DAOのデメリット
いかなる革新的なDAOであっても、欠点があります。
組織運営にDAOを導入したり、DAOに参加して金銭的メリットを享受したりしたい人は、より注意する必要があるでしょう。
ここからは、DAOのデメリットを4つ紹介します。
サービスの安定性に欠ける
DAOは継続性を予測することが難しく、サービスの安定性に欠けるデメリットがあります。
DAOの歴史が浅いため、有名なDAOであっても、1年先、2年先に存在しているかどうかはわかりません。
安定性の点では、ガバナンストークンも例外ではありません。DAOが発行するガバナンストークンはその価値が暴騰する可能性がある一方、価値が暴落して紙くず同然になるリスクがあるためです。
これらはブロックチェーンを基調としたシステムが有するデメリットでもあり、DAOの参加者は「DAOが明日無事に存在する保証はない」と覚悟する必要があるでしょう。
セキュリティリスクがある
DAOは強力なセキュリティ基盤がなければ、資金が盗まれるといったリスクが存在します。
例えば、有名な投資DAOの一つである「The DAO(ザ・ダオ)」は、1億5000万ドルの資金を調達した直後、調達した資金の3分の1が流出するハッキング被害に遭っています。
なぜハッキング被害が起こるのでしょうか。それは、オンチェーンで意思決定を行うDAOの根幹部分は、スマートコントラクト上で作られた自動実行プログラムで作動しているためです。
DAOを実行するツールは改善されているとはいえ、自動実行プログラムは頑強な仕組みとは言えません。このため、わずかなバグがあれば、そのバグをハッカーに突かれて大量の資金を失う事態が度々起きているのです。
仕組みがわかりにくい
DAOはメンバー規約や組織ルールなどが各自異なり、仕組みがわかりにくい傾向があります。
例えば、ソーシャルDAOは同じ趣味趣向を持つ人が集まり交流する、コミュニティ要素が強いDAOである一方、コレクターDAOは複数人でNFTを購入するなど、共同でプロジェクトに投資することを目的としています。
このように、一言でDAOと言っても、カテゴリーごとに運用の目的や方法といった仕組みは異なるのです。
意思決定速度が遅くなる
DAOは契約の自動履行機能であるスマートコントラクトを実装していたとしても、規模が拡大するにつれ、意思決定速度が遅くなるデメリットがあります。
意思決定の遅延は、時差や参加者の優先順位が異なり、全員がタイムリーな投票行動を起こすのが難しいためです。
Web3環境では、意思決定のスピードが求められます。場合によっては、リーダーシップを発揮し、迅速に決定を下すことも必要となるでしょう。
デメリットを踏まえた上での利用を
DAOは近年、音楽やアート、価値の高いアセットなどで、斬新でユニークな使用例が見られ、利用が加速しています。
その一方で、DAOが倒産や不正行為が問題となった場合の法的責任の位置付けなど、根深い問題を抱えています。
いわば、DAOは、発展途上の組織形態です。それでも、マイナスを凌駕する魅力を抱えているのもまた事実。現段階で、構成員としての参加でも、DAOの利便性や有用性は十分に享受できるでしょう。