「複数のアバタが、同一の3次元空間を共有することができる。」
一般的なゲームは、プレイヤーごとにゲームの世界が存在し、基本的にはプレイヤー一人だけが専有します。一方のメタバースでは、一つの世界を他のユーザーとともに共有し、内部のコンテンツも全てのユーザーで同期されることが、一つの基準であると言えるでしょう。
「バーチャル空間上にたくさんの人が集まり、会話やコンテンツを共に楽しめる」というイメージを思い浮かべてください。多くのソーシャルVRでは、そのイメージはすでに現実のものとなっています。友人との談笑はもちろん、音楽ライブやクラブイベント、会議や飲み会まで、一つの空間の中で行うことができます。本記事執筆時点で、特に同時接続人数が多いのはハシラスが提供している「めちゃバース」で、平均的なPCでも実に1000体以上のアバターを表示することが可能です。
ただし、オンラインゲームとの差異については「ものによる」と言えるでしょう。大規模なMMORPGならば、たくさんのユーザーがロビー空間に集まる光景はしばしば見られます。また、現行のソーシャルVR/メタバースプラットフォームも、一つの空間に入れる人数には上限が設定されています。メタバースの語源となった小説『スノウ・クラッシュ』では、一つのワールドに数百万人もの人がいるという描写が存在しますが、これほどの同時接続を完全同期で実現するには、技術的課題が山積みです。
「空間内に、オブジェクト(アイテム)を創造することができる。」
ゲームとのわかりやすい差異のひとつかもしれません。基本的にゲーム内のアイテムはプラットフォームが提供し、ユーザーが創造することはほぼできません(限定的なカスタマイズはできるでしょう)。
現行のソーシャルVRの多くは、ユーザーが作成したアイテムを、なんらかの方法で空間内に自由に持ち込むことができます。最も先進的なのが「NeosVR」で、バーチャル空間の中で、オブジェクトのモデリングや、挙動のプログラミングを行うことができます。また、オブジェクトは複数のユーザーで編集できるため、「NeosVR」ではアイテムはおろかワールドを複数人で「共創」することも可能です。
経済の存在について
上記まででもゲームとの差がある程度列記できたかと思いますが、もう1点重要なポイントがあります。それは「経済」の存在です。
ゲームでは基本的に、アイテムの購入はゲーム内通貨、あるいは法定通貨による課金が主ですが、基本的にはユーザーとプラットフォームとの間のお金のやりとりになります。また、ゲーム自体に大きな目的が設定されているため、ユーザーがそこから脱線した「経済活動」を行えるような幅は少ないことがほとんどです。
メタバースは基本的に、ユーザーに対して大きな目的が設定されません。ユーザーがなにを行うかは自由なのです。このため、様々なサービスやエンターテインメントを提供したり、アイテムなどを売買することで、経済活動を営む土壌が存在します。
本記事執筆時点で、特に活発な領域はアバター市場かと思われます。例えば「VRChat」向けアバターは、「BOOTH」をはじめとしたECサイトにて、制作者である3Dモデラーが自前のストアを開き、販売するという光景が一般化しています。おおむね3000円から5000円程度の相場で販売されており、人気のアバターは1000体以上販売されていることもめずらしくありません。さらに、人気のモデラーの新作アバターともなると、対応する着せ替え衣装や髪型なども別のクリエイターによって制作され、同時に販売が始まるケースも散見されます。ここまでくると、ひとつの「経済圏」といって差し支えない規模です。
一方で、メタバース経済には「決済手段をどうするか」「売買の場をどこに設けるか」という課題も存在します。現行のメタバースの多くは、決済手段も売買の場も外部プラットフォームに依存しているのがほとんどです。理想としては、これらも全てプラットフォーム内(VRであればVRデバイスを身に着けたまま)で完結することが望ましいでしょう。そのためのアプローチとしてブロックチェーンやNFTを提示する人はいますが、これらにも技術的な課題が山積しているため、現時点では「銀の弾丸」にはなりません。
総括
以上までが、メタバースとゲームの主だった差異の解説となります。
冒頭にも記しましたが、メタバースはそれ自体が新しい概念であり、現在進行系でそのあり方を形作っている最中です。半年後には、上述したような「違い」もまた変わる可能性があります。このため、「ゲームとはなにが違うのか」をより深く理解するには、実際に主要なメタバースを体験してみることをおすすめします。
また、主要なプレイヤーの見解も参考になるはずです。メタバース文化エヴァンジェリストのバーチャル美少女ねむさんの単著『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』は、現役ユーザーの視点から包括的な解説を試みており、深い理解の一助となるでしょう。