メタバースの問題点とは?規制法の不在など、主要な6つの問題を紹介

written by小村 海

メタバースは、アバターを介してなりたい自分を演出するアイデンティティや、五感を刺激する没入感、現実社会と相違ない経済システムなど、さまざまな特徴を有し脚光を浴びています。

一方で、現段階で解決し難い問題が存在し、法的な議論も盛んになっているのも事実です。

そこで、本記事では、規制法の不在など、主要な6つの問題点について解説します。

メタバースとは

メタバース(metaverse)とは、オンライン上でつながった仮想空間のことです。

利用者がアバターと呼ばれる分身を介し、現実世界と同じように3次元メタバース空間の中を自由に動き回ったり、他の参加者とコミュニケーションできたりする特徴を有します。

語源としては、ギリシャ語で「超える」の意味を持つ接頭語の“meta”と、ユニバース“universe”が合成されたもので、SF作家のニール・スティーヴンソンが1992年に生み出しました。

その後、リンデン・ラボ社が2003年6月に運営を開始したセカンドライフの登場を機に商用化が拡大。2021年には、世界市場の規模で、4兆2,640億円まで成長しています。

メタバースは今後もパブリックブロックチェーンを基盤としたWeb3世界を代表するツールとして成長を続け、30年には、78兆8,705億円まで拡大すると予想されています。

メタバースの問題点

メタバースは身体性と空間性を兼ね備えたアバターを利用することで、疑似的な感覚を体感できるなど、多くの面で革新性を有します。

一方で、一般ユーザーが利用するには、問題が少なくありません。

ここからは、メタバースの主要な問題点について解説します。

規制法の不在

メタバースには、仮想社会を規制する法律は存在しません。

このため、知的財産や所有などの点で多くの問題が発生すると言われています。

例えば、現実世界の知的財産をメタバース空間でアイテムとして再現し、商標化したとしましょう。この時に問題視されるのが、メタバース空間で生成したアイテムが知的財産として保護されるかどうかです。

現実世界では商標法により知的財産が保護されますが、メタバースでは、商標法のような規制法が存在しません。結果、アイテムが第三者に真似された後に複製されたり、販売した第三者に悪用されたりといった問題が発生する懸念があります。

メタバースに特化した法律を成立させるのは多大な時間と労力を要します。そこで、現在検討されているのが、現実社会の法を事例に応じて類推適用することです。

例えば、弁護士の浜田治雄氏は、論文「メタバース文化と知的財産」で、メタバース社会で得られるべき利益について、不法行為に対する過失責任を規定する民法第709条を適用すべきなどと述べています。

特定企業による独占

メタバースでは、特定企業による独占が懸念されます。

例えば、前述のセカンドライフでは、運営会社のリンデンラボ社が事実上利益を独占する事態を招きました。

具体的には、リンデンラボ社以外にセカンドライフ事業で営業として展開できず、極度の寡占状態となってしまったのです。

セカンドライフは先発のメタバースのため、現在では一つのプラットフォームを運営会社によって独占されるといった事態の発生は稀ですが、今後も特定企業による独占が起きないとも限りません。

また、現実世界で起きているGAFAによる独占と同じように、巨大テクノロジー企業が個人データのゲートキーパーとなり、データを独占するといったリスクは多分にあるでしょう。

現実社会との過剰な融合

メタバースは、質の高い没入型体験により、仮想社会との区別がつかない現実社会との過剰な融合が危惧されます。

例えば、メタバースに没入した人たちが現実社会に戻った後、誰かに向けて銃を撃ったり、首を絞めたりするといった形です。

いわば、ユーザーがネット中毒に冒される危険性があり、医療や教育などの観点から抑止策を講じる必要があるでしょう。

サイバー犯罪の発生

メタバースでは、悪意のある第三者がアバターのオンラインIDを盗むハッキングなどサイバー犯罪が起こる可能性があります。

起こりうるサイバー犯罪は、ハッキングだけではありません。Web2と同じように、犯罪者がファイルやサーバーなどを暗号化し、使用不能にしたうえで、原状回復を条件として多額の「身代金」を請求するランサムウエア攻撃の発生が懸念されます。

また、メタバースのサーバーなどが、不正かつ有害な動作を働くよう開発されたプログラム「マルウェア」に感染するリスクもあるでしょう。

いずれにしろ、仮想社会でのサイバー犯罪を減らすためには、ログイン者の身元を確認してサイバー犯罪を未然に防ぐ方法を見つけなければなりません。

納税問題

メタバースで生じた収益に対し、どのように課税するか納税問題も見過ごせません。

現行の税務上のルールでは、メタバースが物理的な所在と国境がないことから、現行の国際課税におけるソース・ルール(国内源泉所得該当性の決定ルール)は当てはまりません。

それでも、メタバースでの生産活動への所得課税(所得税、法人税、源泉所得税)、消費税、さらにはメタバース内で活動するユーザー数が増えるにしたがって、メタバース内の資産に対する相続税、贈与税の問題などが顕在化するのは必至です。

現行の法解釈では、現実社会と同等の、メタバース上の仮想収益に対する課税は不合理との意見が根強いものの、均衡の取れた何らかの課税システムを導入するのは必要だといえるでしょう。

知的財産権の問題

メタバースは、プラットフォーム内で提供されるアート作品や音楽、パフォーマンスをいかに保護するか、知的財産権の問題が生じています。

代表例を挙げると、現実世界の人やモノ、デザイン、著作物を仮想世界上でアイテム化する際、知的財産の権利を誰に帰属するかという問題があります。

著作物となる楽曲や映像などをメタバースで再生、演奏した際は、どこまで私的使用を認めるかという問題も生じるでしょう。

このように、メタバース内の経済活動などが活発化するにつれ、メタバース外の現実世界を含めた権利侵害の問題も増加すると予想されます。仮想社会を対象とした知的財産の保護法の制定は不可欠だと言えるかもしれません。

問題点解消に向けた取り組みが今後の論点

メタバースは仮想社会と言っても、プラットフォーム内で起こる事象は現実社会と相違ありません。このため、上記で説明した法的な問題が発生しているのです。

今後は、問題を法整備を通じてどのように解消していくのか、国がどの法令を定めるのか、などが論点となるでしょう。

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written by

小村 海

おむら・わたる。「難しいことを簡単に」をキャッチコピーに活動するフリーライター。元地方紙、雑誌記者。クライアントや物事の良い側面を翻訳し伝えることを活動指針とし、主にIT記事を作成している。趣味は野球で、競技歴は12年を超える。一方で、本好きでもあり、新刊には目が無い。

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