アバターを通じてコミュニケーションや経済活動を行える3次元の仮想空間「メタバース」。音楽業界との相性が良く、メタバースを活用した音楽ライブの開催が各地で相次いでいます。
本記事では、メタバースを活用した音楽ライブの定義について説明した後、メタバースの音楽ライブへの活用が進む背景や、活用事例5選について紹介します。
メタバースを活用した音楽ライブとは
メタバースを活用した音楽ライブは、メタバースで開かれる音楽パフォーマンスです。バーチャルコンサートとも呼ばれます。
メタバースを活用した音楽ライブでは、メタバースの仮想ステージに投影されたアバターが、事前に録音された音楽に合わせてパフォーマンスをします。つまり、現実世界と相違ないライブ環境が構築されているのです。
メタバース環境での音楽ライブは、単にリアルなパフォーマンスが展開されているだけではありません。
メタバース内でのアーティストは、物理的な制限に縛られないため、素早く衣装を変更したり、メタバースの環境を変更して新しいステージを作成したりすることが可能です。
メタバースの音楽ライブへの活用が進む背景
メタバースの音楽ライブへの活用が進むきっかけとなったのは、新型コロナウイルス感染症の拡大です。
新型コロナのパンデミックを受け、国からイベント自粛要請が出たり、ソーシャルディスタンスを確保するニューノーマル(新常態)が定着したりした結果、音楽イベントの開催回数が激減しました。
実際、ぴあ総研の調査によれば、新型コロナによる中止や延期で売り上げがゼロ、または減少した音楽やスポーツイベント数は、2020年2月〜5月末だけで19万8,000本に上り、入場料の損失額は約3,615億円に達しています。
入場料の損失額は甚大です。2020年のライブ・エンタテインメント市場の売上高は、新型コロナの拡大前と比べて約8割が消失しました。
2022年以降は、外出自粛が緩和され、それに伴い音楽業界も回復に向かうと思われましたが、失った客足が簡単には戻らないのが実情でした。人々の生活に「感染リスクを避けるため、人が密集する場所は避ける」との習慣が定着してしまったためです。
そうした状況の中、リアルと相違ない臨場感のある音楽環境を作ろうと、音楽ライブの運営に導入されたのが、メタバースでした。メタバースを活用した音楽ライブは、すでに国内外で開催され、コロナ禍における新たな音楽の様式として、定着しつつあります。
メタバースを活用した音楽ライブの事例6選
メタバースを活用した音楽ライブの事例は次の通りです。
- サンリオバーチャルフェス
- Metaverse Music Festival
- Soundwave Series
- エイベックスランド
- JM梅田ミュージックフェス
ここからは、それぞれの事例について解説します。
サンリオバーチャルフェスティバル
サンリオバーチャルフェスティバルは、株式会社サンリオと株式会社サンリオエンターテイメントが主催する、リアルとバーチャルが融合したライブイベントです。
2021年12月に初開催され、2023年1月に第2回が、ソーシャルVRプラットフォームを運営している米企業VRChatの協力のもと、開催されました。
第2回開催のイベントには、「バーチャルサンリオピューロランド」と銘打った地下5階の巨大空間に、鈴木愛理やSKY-HIといったアーティストのほか、バーチャルアーティストや、ハローキティやシナモロールなどのサンリオキャラクターらが出演。
サンリオファンからバーチャル上級者まで、さまざまな参加者が参加し、コミュニケーションを楽しみました。
Metaverse Music Festival
Metaverse Music Festivalは、メタバースプラットフォーム「Decentraland」が2022年11月10日に開催した音楽フェスティバルです。
メインステージに新しい学校のリーダーズのほか、メタバース内の文化都市開発を手がける「MetaTokyo株式会社」がプロデュースする「MetaTokyoステージ」には、きゃりーぱみゅぱみゅ、FRUITS ZIPPER、江戸レナなど総勢約150人のアーティストが出演しました。
MetaTokyoの集計によれば、MetaTokyoのステージには、世界101カ国から延べ2万人が来場。日本のユーザーは少なめでしたが、アメリカやスペイン、カナダなどを中心とする世界中の来場者が、アーティストのライブやミュージックビデオを楽しみました。
Soundwave Series
Soundwave Seriesは、Epic Gamesが販売・配信するオンラインゲーム「フォートナイト」のクリエイティブ・モード内で開かれる音楽イベントです。
ゲームプレイヤーがアーティストのバーチャルライブを楽しみながら、双方向な体験を楽しめるのが特徴であり、2021年に始まりました。
2022年6月に開催されたSoundwave Seriesには、星野源が参加し、「喜劇」や「不思議」、「恋」など、収録した全6曲の生演奏を披露。星野源のパフォーマンスは全世界的な盛り上がりを見せ、同8月31日〜9月2日にアンコール放送されました。
エイベックスランド
エイベックスランドは、エイベックス・テクノロジーズ株式会社が、世界最大規模のブロックチェーンゲームプラットフォーム「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」にオープン予定のテーマパークです。
エイベックスランドは、仮想空間上でのアーティストとファンの交流をコンセプトとしており、オープン後はアーティストの配信ライブやファンミーティングといったイベントの実施が予定されています。
すでにThe Sandbox内に、東京ドーム約7個分にもなる広大なメタバースの土地を購入して準備が進行中。オープンに先立ち、2022年3月にエイベックスアーティストの関連NFTを集めた「Metavex District LANDセール」が開催されましたが、オープンの見通しは2023年1月現在で、立っていない模様です。
JM梅田ミュージックフェス
JM梅田ミュージックフェスは、大手関西私鉄である阪急阪神ホールディングスがメタバース上で2022年3月と同7・8月に開催した音楽フェスです。
JM梅田ミュージックフェスは、大阪・梅田の街をデジタル空間上に忠実に再現した「JM梅田(Japan Multiverse梅田)」で開催。
2022年7・8月に開催された「JM梅田ミュージックフェス2022 SUMMER」には、「まりなす」や「星川サラ・夢追翔(にじさんじ)」など、総勢30人を超えるバーチャルアイドル・アーティストが参加し、8万人以上の来場者を集客しました。
メタバース活用の音楽ライブに参加してみよう
メタバース上の音楽ライブは、テレビやインターネット動画といったメディアに比べ、臨場感が高いことから、参加者は深くライブに没入できます。
ここまで紹介してきた、メタバース上の音楽ライブの魅力や好事例からも、臨場感と没入感の高さは明らかでしょう。
それでも、メタバースは、「百聞は一見にしかず」がまさに当てはまる体験です。メタバースを活用した音楽ライブの良さは、実際に参加することで、体感するとよいでしょう。